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東京高等裁判所 平成3年(行ケ)65号 判決

富山県高岡市早川550番地

原告

立山アルミニウム工業株式会社

代表者代表取締役

竹平栄次

訴訟代理人弁護士

森田政明

同弁理士

森正澄

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 麻生渡

指定代理人

岡千代子

中村友之

佐藤雄紀

田辺秀三

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

「特許庁が平成1年審判第19506号事件について平成3年1月24日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

2  被告

主文と同旨の判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和57年7月8日、名称を「出窓の補強部材」とする考案(以下「本願考案」という。)につき実用新案登録出願をし、昭和63年5月19日出願公告されたが、実用新案登録異議の申立てがあり、平成1年8月24日拒絶査定を受けたので、同年11月21日審判を請求した。特許庁は、この請求を平成1年審判第19506号事件として審理した結果、平成3年1月24日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をした。

2  本願考案の要旨

出窓1の屋根材2または下受支持材3として用いられるアルミ鋳物であって、下記(A)、(B)および(C)要件を備えたことを特徴とする出窓の補強部材。

(A)  補強部材本体5は、出窓1の平面形状に適合する形状を備えること。

(B)  出窓1の窓部4に対応する位置に複数のリブ6、6を備えること。

(C)  各リブ6、6は、水平面位置を等しくし、かつ、その端面7から垂直方向に螺孔8を形成すること。(別紙図面1参照)

3  審決の理由の要点

(1)  本願考案の要旨は前項記載のとおりである。

(2)  これに対して、実公昭52-51868号公報(以下「引用例」という。)には、次のとおりの事項により構成された考案が図面とともに記載されている(別紙図面2参照)。

本体1の端面内側に、第10図に示されるような水平な板状の突片3が出窓15のユニット窓11に対応する位置に形成された、台形状の屋根材4及び下受台5をアルミニウム鋳物にて同形に形成し、突片3には複数の孔13が穿設されてなる出窓の屋根材あるいは下受台。

(3)  本願考案と引用考案とを対比すると、引用考案の「下受台5」は、本願考案の「下受支持材3」に相当し、引用考案の屋根材、下受台が出窓に適合する平面形状であり、また、突片3は、出窓15のユニット窓11に対応する位置に形成されていて水平な板状のものであるから、出窓の窓部に対応する位置に形成された水平面位置を等しくしていることは明らかである。さらに、本願考案の「補強部材」とは、屋根材、下受支持材となる部材を総称しているものであり、また、引用考案の「突片」、本願考案の「リブ」はともに窓部の固定部であり、同様に引用考案の「孔」、本願考案の「螺孔」はともにボルトの装着孔であることも明らかである。以上の点を総合勘案すると、両者は、以下の一致点、相違点を有するものである。

〈1〉 一致点

出窓の屋根材または下受支持材として用いられるアルミ鋳物であって、下記(A)、(B)および(C)要件を備えた出窓の補強部材。

(A) 補強部材本体は、出窓の平面形状に適合する形状を備えること。

(B) 出窓の窓部に対応する位置に窓部の固定部を備えること。

(C) 窓部の固定部は水平面位置を等しくし、かつ、ボルトの装着孔を形成すること。

〈2〉 相違点

窓部の固定部及びそこに形成されるボルトの装着孔が、本願考案では複数のリブであり、リブに端面から垂直方向に形成された螺孔であるのに対して、引用考案では水平な板状の突片であり、突片に穿設された単なる孔である点。

(4)  そこで、この相違点について検討する。

従来、建具の技術分野において、窓の構成部品の結合に際し、螺孔を形成したリブを用いることは周知の手段である(例えば、実開昭53-65237号公報、意匠登録第533342号公報等参照)から、引用考案において、窓部の固定部及びそこに形成されるボルトの装着孔を、本願考案のような構成のものにすることは、その周知手段の適用により当業者がきわめて容易に想到し得る程度のことである。また、本願明細書に記載された作用効果も、引用考案及び前記周知手段のいずれからも期待し、または、予期し難いような格別なものとは認められない。

(5)  したがって、本願考案は、引用考案及び周知手段に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであり、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができない。

4  審決の取消事由

審決の理由の要点(1)は認める。同(2)のうち、引用例に「水平な板状の突片3が出窓15のユニット窓11に対応する位置に形成された」ものが記載されているとの点は否認し、その余は認める。同(3)のうち、引用考案の「下受台5」は、本願考案の「下受支持材3」に相当し、引用考案の屋根材、下受台が出窓に適合する平面形状であること、本願考案の「螺孔」がボルトの装着孔であることは認めるが、その余は争う。同(4)、(5)は争う。

審決は、本願考案と引用考案との一致点の認定を誤り、かっ、本願考案の奏する顕著な作用効果を看過して、本願考案の進歩性を否定したものであるから、違法として取り消されるべきである。

(1)  一致点の認定の誤り(取消事由1)

本願考案と引用考案とは、出窓の窓部に対応する位置に窓部の固定部を備える点、及び、窓部の固定部は水平面位置を等しくし、かつ、ボルトの装着孔を形成するものである点において一致するとした審決の認定は誤りである。

〈1〉 引用考案において、突片に穿設されたボルトの挿通孔は、窓部と屋根材または下受台との固定のためには何ら機能するものではなく、単に窓部と屋根材または下受台とを連結するためのボルトの挿入孔にすぎず、上記固定はナットによる螺着作業によって行われるのである。したがって、ボルトの挿通孔を固定部ということはできず、引用考案は窓部の固定部を備えているとはいえない。

次に、本願考案の実用新案登録請求の範囲のうち、「(B)出窓1の窓部4に対応する位置に複数のリブ6、6を備えること」との記載は、それ自体意味が明瞭でなく、また、この記載には実施例図面の符号が付されているのであるから、本願明細書の考案の詳細な説明及び図面の記載を参酌して、その意味を解釈する必要があるところ、考案の詳細な説明及び図面の記載によれば、上記記載は、「窓部の上下枠と補強部材との接合箇所に対応する任意の位置に複数のリブを備えること」を意味するものであると解するのが相当である。これに対して、引用考案においては、ユニット窓の方立と屋根材及び下受台との接点が結合部として特定され、固定箇所が限定されているから、窓部の固定部の位置を「出窓の窓部に対応する位置」といっても、本願考案と引用考案とでは、その内容が異なっているのである。

上記のとおりであるから、本願考案と引用考案とは、出窓の窓部に対応する位置に窓部の固定部を備える点で一致するとした審決の認定は誤りである。

〈2〉 本願考案においては、螺孔8にボルトが螺着されるという意味において、螺孔8は装着孔であるといえる。これに対して、引用考案においては、屋根材と下受台にボルトを挿通し、それぞれの突片からボルトの端部を突出させ、その端部にナットを回転させてボルトに螺着するものである。このように、屋根材と下受台に挿通されるボルトが孔に装着されることなく挿入され、孔とは別体のナットを締めて螺着するものである引用考案のボルト挿通孔をもって装着孔とすることは誤りである。

したがって、本願考案と引用考案とは、ボルトの装着孔を形成するものである点で一致するとした審決の認定は誤りである。

(2)  作用効果の看過(取消事由2)

本願考案と引用考案とは、窓部と屋根材または下受支持材(下受台)とを固定するものであるという点では一致するが、本願考案は、屋根材または下受支持材に窓部を固定するものであるのに対し、引用考案は、屋根材及び下受台を窓部に固定するものであるという点で、固定するものと固定されるものとの関係が逆である。すなわち、本願考案は、窓部を屋根材または下受支持材に固定できる構成のものであって、屋根材と下受支持材とに窓部を連結固定させ一体的な出窓としなくてもよいように構成したものであり、屋根材と下受支持材とを窓開口部に取り付けて出窓を構築した後にも、屋根材と下受支持材とに窓部を自在に固定できる構成のものである(甲第3号証第2欄末行ないし第3欄4行)。これに対して、引用考案は、ユニット窓の方立内に長いボルトを挿通させ、その両端を方立の端面から突出させ、屋根材と下受台のそれぞれに設けられた突片に穿設された孔に上記ボルトを挿入してユニット窓に屋根材と下受合とを連結し、ナットを螺着して固定させるものであって、出窓を予め組立施工してユニット化することに特徴がある。

上記のとおり、本願考案は、現場での出窓の構築後に窓部を固定できるという特段の作用効果を奏し得るものであるのに対しそ、引用考案は、出窓のユニット化しか果たし得ないものであるという作用効果上の相違点があるにもかかわらず、審決は、これを看過したものである。

第3  請求原因に対する認否及び被告の主張

1  請求原因1ないし3は認める。同4は争う。審決の認定、判断に原告主張の誤りはない。

2(1)  取消事由1について

〈1〉 引用考案において、ボルトを突片に穿設された孔に嵌合しなければ、ナットで螺着しても突片に固定することはできず、ボルトを孔に嵌合すること自体、固定のために必要な条件であるといえるから、「孔は固定に機能している」ということができる。また、引用例に記載された出窓は、「突片3に穿設した孔13をボルト12に嵌合し、ボルト12にナット14を螺着してユニット窓11と屋根材4及び下受台5を固定する」(甲第10号証第1欄22行ないし25行)もの、換言すれば、ユニット窓は、屋根材及び下受台の突片に穿設された孔にボルトで固定されるものであるから、孔の穿設された突片はユニット窓(窓部)の固定部である。そして、審決において、「引用例に記載された考案の『突片』、本願考案の『リブ』はともに窓部の固定部であり、」と認定したのは、「突片」、「リブ」は、いずれも窓部をボルトで固定しようとする箇所であるからであり、窓部は、突片あるいはリブの部分において固定されることによって補強部材と一体となるのであって、審決にいう「窓部の固定部」は、窓部をボルトで固定しようとする部分というほどの趣旨である。

次に、本願考案の実用新案登録請求の範囲の(B)には、リブを備える位置について、「任意の位置」との記載はなく、また、本願明細書及び図面にもそれに関する記載は見当たらないのであって、実用新案登録請求の範囲中の「(B)出窓1の窓部4に対応する位置に複数のリブ6、6を備えること」との記載は、「窓部の上下枠と補強部材との接合箇所に対応する任意の位置に複数のリブを備えること」を意味するものである旨の原告の主張は理由がない。本願考案におけるリブは、単に、窓部に対応する位置にあり、引用考案における突片も窓部に対応する位置にあるから、この点に差異はない。

以上のとおりであるから、本願考案と引用考案とは、出窓の窓部に対応する位置に窓部の固定部を備える点で一致するとした審決の認定に誤りはない。

〈2〉 審決にいう「ボルトの装着孔」とは、ボルトをじかに取り付けるための孔であるか否かは別にして、「ボルトを取り付ける孔」というほどの趣旨である。そして、螺合しているか否かはともかく、本願考案のボルトは螺孔に、引用考案のボルトは孔に、それぞれ取り付けられるものであって、本願考案の螺孔も、引用考案の孔もボルトに取り付ける孔であるという限りにおいては共通している。

したがって、引用考案の「孔」、本願考案の「螺孔」はともにボルトの装着孔であり、本願考案と引用考案とは、ボルトの装着孔を形成するものである点で一致しているとした審決の認定に誤りはない。

(2)  取消事由2について

原告は、本願考案は屋根材または下受支持材に窓部を固定するものであるのに対し、引用考案は屋根材及び下受台を窓部に固定するものである旨主張するが、本願考案及び引用考案における出窓は、いずれも建物外壁に取り付けられる前のものであって、予め窓部と補強部材とが組み立てられているものであるから、その組立順序に格別の意味はなく、また、組立順序は本願考案の構成要件となっていないのであるから、原告の主張は構成要件に基づかないものであって理由がない。

また、原告は、本願考案は現場での出窓の構築後に窓部を固定できるという特段の作用効果を奏し得るものである旨主張するが、この主張も本願考案の構成要件に基づかないものであり、甲第3号証第2欄末行ないし第3欄4行の記載は原告の主張を裏付けるものではない。

審決が本願考案の作用効果を看過したことはない。

第4  証拠関係

証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりである。

理由

1  請求原因1ないし3の事実は当事者間に争いがない。

2  本願考案の概要

成立に争いのない甲第3号証(本願公告公報)によれば、次の事実が認められる。すなわち、

本願考案は出窓の屋根材または下受支持材として用いられるアルミ鋳物製の補強部材に関するものである(同公報第1欄14行、15行)。

出窓は、建物の外壁に突出して設けられるため、一般には建物の建築と同時になされるが、近年においては出窓のユニット化工法の開発に伴い、新たに出窓のみを設ける改築も多く行われつつあり、この種の考案としては、実公昭52-51868号公報(本件の引用例)所載の出窓が公知であり、その構成要素にアルミ鋳物製の補強部材が用いられている。ところで、同公報記載の考案において、窓部を補強部材に固定するには、窓部の方立内にボルトを挿通してその両端を該方立の端面から突出させ、各ボルト端部と補強部材とをそれぞれ2個のナットを用いて螺着するものであるから、ボルトは方立よりも長いものを用意しなければならないし、その個々の螺着も複数のナットによるため作業に手数を要するものであった(同第1欄16行ないし第2欄3行)。

本願考案は、上記事情に鑑みてなされたもので、この種の出窓に用いられる補強部材を改良することにより、上記欠点を解消することを目的とするものであって(同第2欄4行ないし6行)、前記本願考案の要旨(実用新案登録請求の範囲の記載と同じ)記載の構成を採用したことにより、本願考案に係る補強部材を用いて出窓を構築する場合は、窓部4、4の組立てと同時か、あるいはその後に、窓部4の上下枠41、42からボルト12、12を挿入して、リブ6、6の螺孔8、8に螺着するのみでよく(同第2欄末行ないし第3欄4行)、従来の出窓補強部材を用いた場合に比べ、出窓の施工作業が極めて簡単かっ容易に行うことができるようになったものであるとされている(同第4欄4行ないし6行)。

3  そこで、審決取消事由の当否について検討する。

(1)  取消事由1について

〈1〉  引用例には、「水平な板状の突片3が出窓15のユニット窓11に対応する位置に形成された」ものが記載されているとの点を除き、審決認定の出窓の屋根材あるいは下受台が記載されていること、引用考案の「下受台5」は本願考案の「下受支持材3」に相当し、引用考案の屋根材、下受台が出窓に適合する平面形状であることは、当事者間に争いがない。そして、引用例(成立に争いのない甲第10号証)の第10図によれば、引用考案における突片3は水平な板状のものであって、水平面位置を等しくしているものと認められる。また、本願明細書中の「本考案は出窓の屋根材または下受支持材として用いられるアルミ鋳物製の補強部材に関するものである。」(本願公告公報第1欄14行、15行)との前記記載に照らしても、本願考案の「補強部材」とは、屋根材、下受支持材となる部材を総称しているものであるとした審決の認定に誤りはない。

〈2〉イ  前掲甲第10号証によれば、引用例の第3欄6行ないし15行には、「まず突片3が有段に形成されている場合には方立8の両端部をこれに合わせた形状に切欠いておき、次いで第3図に示すように方立8の中空内にボルト12を挿通してその両端を方立8の端面から突出させ、第10図に示すようにこの突出したボルト12に本体1の突片3を穿設された孔13を嵌合し、ボルト12にナット14を螺着して第1図に示すように上下に対向した屋根材4と下受台5の両側にユニット窓11は固定され、出窓15が構成される。」と記載されていることが認められる。

この記載によれば、引用考案において、屋根材4あるいは下受台5とユニット窓11を結合して出窓15を構成するには、方立8の中空内にボルト12を挿通してその両端を方立8の端面から突出させること、この突出したボルト12を突片3に穿設された孔13に挿入すること、ボルト12にナット14を螺着することが必要であり、ボルト12に螺着したナット14を締め付けると、その締付け力が突片3に穿設された孔13の周辺部分に伝わり、屋根材4と下受台5を接近させるように作用し、その結果、ユニット窓11と屋根材4あるいは下受台5との固定が行われるものと認められる。そうすると、ボルト12、ナット14と突片3の孔13が穿設された周辺部分は、一体となってユニット窓と屋根材あるいは下受台との結合に寄与しているものと解することができるから、孔13の穿設された突片3はユニット窓(窓部)の固定部といってよく、また、突片3に穿設した孔13は、固定に必要なボルト12を挿通するのに不可欠なものであるという意味において、窓部を固定する部分の一部であると認めることができる。

そして、本願考案において、螺孔8を形成しているリブ6が窓部4の固定部であることは明らかである。

ロ 次に、本願考案における複数のリブは、水平面位置を等しくし、かつ、その端面7から垂直方向に螺孔8を形成していて(本願考案の要旨(C))、窓部4と補強部材(屋根材2、下受支持材3)とを結合することを目的として備えられるものであると認められるから、リブ6、6を備える位置が、窓部4と補強部材とを結合しようとしたときの窓部4の位置、すなわち、窓部4に対応する位置にあるべきことは明らかであるところ、本願考案の実用新案登録請求の範囲中の「(B)出窓1の窓部4に対応する位置に複数のリブ6、6を備えること」という記載は、このことを正しく表していて、何ら不明瞭な点はない。また、実用新案登録請求の範囲中に図面の符号を付す場合があるのは、考案の内容が迅速かつ容易に理解されるための補助的手段として用いられているにすぎず、図面の符号が付されているからといって、考案の要旨となる構成要件をその符号を用いて図示された具体的構成のみに限定して解釈すべきでないことは明らかである。したがって、本願考案の実用新案登録請求の範囲中の「(B)出窓1の窓部4に対応する位置に複数のリブ6、6を備えること」との記載の意味が明瞭でないこと、実施例図面の符号が付されていることを理由として、本願明細書の考案の詳細な説明及び図面の記載を参酌して、上記記載の意味を解釈する必要がある旨の原告の主張は理由がなく、また、この主張を前提として、上記記載は、「窓部の上下枠と補強部材との接合箇所に対応する任意の位置に複数のリブを備えること」を意味するものと解すべきである旨の原告の主張も、本願考案の実用新案請求の範囲の記載に基づかないものであって採用できない。

一方、前掲甲第10号証によれば、引用考案においても、突片3は、出窓15のユニット窓11に対応する位置、すなわち、窓部と補強部材(屋根材4、下受台5)とを組み合わせたとき、窓部を結合できる位置に備えられていることは明らかである。

ハ  上記イ、ロによれば、本願考案と引用考案とは、出窓の窓部に対応する位置に窓部の固定部を備える点で一致するとした審決の認定に誤りはない。

〈3〉  前記〈1〉イで説示したとおり、引用考案においては、ボルト12に螺着されたナット14を締め付けた場合には、その締付け力が突片3に穿設された孔13の周辺部分に伝わり、屋根材4と下受台5を接近させるように作用し、その結果、ユニット窓11と屋根材4あるいは下受台5との固定が行われる。ところで、ボルト12が孔13に挿通された状態においては、ボルト12の左右動が孔13によって規制され、固定が完了した状態においては、ボルト12が孔13の中で動かないように固定されて、ボルト12が孔13に取り付けられているとみてよい状態になっていることは明らかである。

そうすると、このボルト12が孔13に取り付けられているとみてよい状態になっていることを根拠として、引用考案の「孔」はボルトの装着孔であるとした審決の認定に誤りはない。

また、引用考案における突片3は水平な板状のものであるから、水平面位置を等しくしていることは明らかである。

したがって、本願考案と引用考案とは、窓部の固定部は水平面位置を等しくし、かつ、ボルトの装着孔を形成している点で一致するとした審決の認定に誤りはない。

以上のとおりであって、取消事由1は理由がない。

(2)  取消事由2について

前記第2項に認定のとおり、本願考案は、出窓に用いられる補強部材を改良することにより、方立よりも長いボルトを用意しなければならず、個々の螺着も複数のナットによるため作業に手数を要する引用考案の欠点を解消することを目的とするものであって、本願考案の要旨記載のとおりの、補強部材の構成のみを要旨とする考案である。

本願考案は、出窓の組立構造あるいは建物外壁への取付構造をその要旨とするものではないから、これを前提とする原告主張の作用効果は、本願考案の要旨に基づかないものである。

本願明細書には、本願考案の作用効果に関して、「本案の補強部材を用いて出窓を構築する場合は、窓部4、4の組立てと同時か或はその後に、窓部4の上下枠41、42からボルト12、12を挿入して、リブ6、6の螺孔8、8に螺着するのみでよい。」(前掲甲第3号証第2欄末行ないし第3欄4行)と記載されているが、その文脈からして、この記載は、窓部4、4を組み立てながら、窓部4の上下枠41、42からボルト12、12を挿入して、リブ6、6の螺孔8、8に螺着するか、あるいは、予め窓部を組立てておいてから、窓部4、4の上下枠41、42からボルト12、12を挿入して、リブ6、6の螺孔8、8に螺着するのみで補強部材と窓部とを固定することができる、ということを意味するものと認めるのが相当であって、補強部材を窓開口部に取り付けて出窓を構築した後に窓部を固定することができるということまでをも含むものと解することはできない。

確かに、本願考案に係る補強部材を用いた場合には、窓部の一部をリブに当てて、その上からボルトをリブに形成した螺孔に螺着するだけで窓部と補強部材との固定ができるのであるから、屋根材と下受支持材とを窓開口部に取り付けて出窓を構築した後に、屋根材と下受支持材に窓部を固定できるものと考えられる。しかし、前記のとおり、本願考案の要旨には、窓部又は補強部材の構成として建物外壁への取付構造は含まれておらず、したがって、屋根材と下受支持材とを窓開口部に取り付けて出窓を構築した後に、屋根材と下受支持材とに窓部を固定できる構成であることが明らかであるとはいえず、しかも、本願明細書にもこの点についての記載はないのであるから、原告が本願考案の作用効果であると主張する事項は、本願考案の要旨及び本願明細書の記載に基づかないものであって採用できない。

以上のとおりであって、取消事由2は理由がない。

4  そして、前掲甲第3、第10号証によれば、本願考案と引用考案とは、審決の理由の要点(3)〈2〉摘示の点において構成上の相違が認められ、また、いずれも成立に争いのない甲第14号証(実開昭53-65237公報)、第15号証(意匠登録第533342号公報)によれば、同(4)摘示のように、上記相違点の構成は、周知手段である上記甲号各証の適用により当業者がきわめて容易に想到しうる程度のことと認められる。

5  よって、審決の違法を理由としてその取消しを求める原告の本訴請求は、理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松野嘉貞 裁判官 濵崎浩一 裁判官 田中信義)

別紙図面1

〈省略〉

別紙図面2

〈省略〉

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